「少しですが、どうぞ」
甘い物よ、と中身を教えながらにこっと笑う琳華に愛霖の表情が明るいものに変わる。
「適度な甘い物は心も体も元気にしてくれますからね」
「琳華様……っ」
うるうると瞳を潤ませる愛霖が喜んでくれているようで琳華も一先ず安心する頃、梢も同じように下女たちにちょっとした賄賂を撒いていた。
小休止の最中も前列にいる伯丹辰とその仲間たちの楊、尹、葉の三人は話をしているようだが家に帰されてしまった秀女と仲が良かったらしい一部の者は少し、孤立している。
別に無理に仲良しになる必要もないし、これは女同士の戦争なのだと思えば一人でいたとしても何も不自然さはない。
琳華は考える。自分を抜かした残り九名の中にまだ黒い思惑を持った者が潜んでいるとして。
(それならすべての方をわたくしが掌握してしまえばいい。ここにいる全員とわたくしが仲良しになってしまえば自在に操れ、)
「……さま、琳華様」
愛霖に呼ばれて意識が切り替わる。
今、抱いた感情は何だったのだろうか。
いくら尊い命令を受けて行動をしているとは言え人を、人の心をどうこうするつもりなんて無かったはずなのに。
「あの、もし琳華様がよろしかったらなのですが……座学が終わったらわたくしの部屋に少し寄って頂いてもよろしいですか?最初からずっと気に掛けてくださって、わたくし何もお礼をしていなくて」
「そんな、逆にわたくしの方が気を遣わせてしまって」
琳華は最年長だから、と言う手前もあるがほとんど自然と面倒を見ただけで体の調子があまりすぐれないような者を無視して放っておけるような冷淡な性格もしていない。
そんな後席での小さな会話に誰しもが聞き耳を立て始めているがちょうど小休止が終わり、担当の女官が入室する。
終わる頃には皆がへとへとになりながらも姿勢を正して廊下をゆく。華やかな一団は今日これから予定が無いのでどうするか、と言う話をしていた。ある者は気晴らしに散策へ、ある者は部屋で横になりたい、と一番後ろを歩いていた琳華と愛霖の耳にも聞こえて来る。
「あの、琳華様の好みに合うか分からないのですが」
劉愛霖、と札が提げられている扉の前。部屋の中にも通してくれる愛霖の後ろで彼女について来た琳華はすぐに部屋の中が甘くいい匂いになっているのを感じる。
「わたくし、香などを集めるのがちょっとした趣味で」
「そうだったのですね。だからいつも愛霖様から甘い香りが……どちらの香をお使いになっているか伺いたかったの」
「ほ、本当ですか?!」
「ええ。でもあまりずけずけと聞いてしまうのも失礼ですから」
「そんな……親しくしてくださるのは琳華様だけです。秀女として競い合う仲だからでしょうか。生まれや家柄などを聞いて回る方もいて」
少し俯く愛霖は侍女を持っていない。
つまり彼女の家柄はそこまで、と言うことだ。実家には使用人がいるのかもしれないが後宮に連れて来られるような作法などが身についていないなら、愛霖は単身でやって来るしかない。
