『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』



 朝食の膳が運び込まれる時間。相変わらず琳華の部屋の前は賑やかだった。最年長の年増、と言われもしたがその落ち着いた立ち居振る舞いや美しさに取り入ろうと下心を隠せないでいる年若い下女たち。そんな思惑が透けて見えていても琳華は配膳の感謝の気持ちとして用意をしてくれる者に対し花が咲くようににこっと笑いかける。
 計算された笑顔ではあるがこれも全ては宗駿皇子の為であった。

 「……下女の方々がこの様子だと例の賄賂、役に立ちそうね」
 「お嬢様と一緒に作った美味しい甘味ですからひとたび口にしてしまえば……うふふ」
 「別に変な混ぜ物はしてないのだけど年々、技術は向上しているから」
 「糖蜜の煮詰め方とかしっかりと帳面につけていますし」
 「二人でちょっとした商いを始めても良いくらいよね。後宮で働く女性たち御用達の甘味問屋とか」

 冗談交じりに笑う琳華だったが周家の利益についての教えに則ればそう言った考えも自然と浮かぶ。
 とにかく琳華と梢は小さな頃から色々と生きてゆく術を両親から躾けられてきていたのだ。

 「それにしても調理場が近いからかしら。しっかりと温かい物が食べられるなんて」
 「話に聞くところ、どうしても炊事などの場所から離れている宮の方は時期によってはすっかり冷めてしまうみたいですね」
 「女性が、特に皇帝陛下や皇子様の御寵愛を賜る身を冷やすのは良くないと思うのだけど、なかなか事情は厳しいようね」

 二人ともが琳華の母親から「体を冷やさないように」と口うるさく言われていた。なんとなく距離を置いていた琳華ですら寒くなる前には新しい綿が詰められた羽織や布団が与えられ、別に傷んだりなどしていない綺麗なお下がりはそのまま梢に与えられたり通いの使用人にも冬支度のための俸禄(ボーナス)として配られていた。

 「わたくしたちも有難く頂かないと……とは言え」

 耳を澄まさずとも、朝食も無しに出て行かされる秀女の声が聞こえる。それからの二人は黙々と食事を済ませ、梢は琳華の最終的な支度を手伝うと座学の為に二階部分に向かう主人を見送る。

 ・・・

 午前中は作法、礼儀についての座学と実践をみっちりと女官によって教えられる。当初十二人いた秀女は十人に減っていた。
 あまり前面にしゃしゃり出るのも、と琳華の定位置は後方の席だったのだが反対に積極的な丹辰は一番前の席で熱心に講義を聞いている。
 座学の合間、小休止の時間が与えられると秀女たちは真っ直ぐに伸ばしていた姿勢を崩してそれぞれに小さな溜め息をつく。流石に今日は遅く起きた琳華も深呼吸をして隣の席の劉愛霖の様子を伺った。

 「愛霖様、お加減はどうですか?」
 「ひぇ、あ……はい。お陰さまでなんとか持ち直しました」
 「そう。それなら良かった」

 話し掛けられた愛霖は頬を赤らめて恥ずかしそうにしているが琳華は梢が作った紙包みの一つを差し出した。