誰が味方で、誰が敵なのか。
判断を誤ってしまえば首が飛ぶような場所で分からないことばかり。琳華の無意識に近い層にある不安な想い……そして今なぜか、偉明の涼やかな顔がよぎった。
(どうして、偉明様なんて)
この年齢になるまで男性の好みなどあまり考えたことの無かった琳華。かなり稀ではあるが自由奔放にさせてくれていた父親も裏を返せば琳華を家から出さず、箱入り娘のままでいたせいで――今、琳華の心は急速に変わりはじめていたのだった。
「馬子にも衣装、か」
「にゃん゛っ!!」
突然降りかかって来た影と声に琳華の体が飛び上がる。
「私の気配が読めなかったのか」
「か、考え事をしていただけです」
濃紺の衣裳を身に纏った偉明は言い訳をする琳華を鼻で笑ってすい、と視線を彼女の後方に移す。そこには梢がいたのだが偉明の視線に気がついてパッと一歩下がった。
「ご息女。昼間の謁見の際に宗駿様に笑われていたが気づいていたか?」
「……はい。それは、雰囲気で」
今日の琳華は美しかったのだ。誰が見ても既に皇子の正室や側室などと言われてもおかしくないくらいの完成度。完璧な化粧に上質な青みがかった濃灰色の衣裳は彼女の気高さを一番に引き立てていた。
薄桃色の衣裳よりもその渋い色合いの方が琳華の強い本質さを飾り……と、偉明は少し眉尻を落とす。
「あの御方の心を動かす者は本当に数少ないのだ」
「それは……」
「温和そうな面立ちをされているだろう。だが、そうされているだけなのだと知っている者からすれば昼間のあの謁見は正直驚いた」
「それはわたくしがやはり年齢的にも場違いでおかしかったから」
「そうではない」
偉明の声が少し強くなる。本人も咳払いをしてから「ご息女、少しその辺を歩くぞ」と言われた琳華は後ろに控えてくれている梢を見る。
「主人を借りても良いか」
同じように振り向いた偉明の長い髪がするりと揺れた。
今日は高く結い上げている琳華と一纏めに高く結んでいるだけの偉明。そんな二人を背後で見ていた梢は思い切り頷く。
――夕暮れ時、同じ年頃の男女が二人。
美しい琳華の隣には……梢は偉明がいるなら、ともう二歩ほど下がるとまるで上等な風景画のような二人の後ろ姿を眺める。
また「ぐふふ」と感情がこぼれてしまいそうになる梢は口をぎゅっと結びながら話をし始めた二人についてゆく。
