あまり騒がしい事は苦手、と言いたげな琳華の落ち着いた様子に丹辰もこれ以上は強く出られないようで引き下がる。しかし彼女を取り巻く秀女たちは若干、琳華が付き合いの悪い女性と言う印象を持ってしまった。
「ひと口ずつだけど、皆さんで食べて」
ね?とにこっと笑ってから梢を連れて広間から立ち去る琳華に対する評価が秀女たちの間でごく僅かに、二分し始める。
ある者には最年長者としての余裕、ある者には年下に対する付き合いの悪さ。どちらかと言うと女官や宮女たちからは前者、丹辰の取り巻きからは後者の雰囲気が漂うが琳華は元布団部屋に戻って来るとまた、椅子に座り込んでしまった。
「お嬢様も甘い物を少しお食べになりますか」
短く頷く主人に梢は家から持って来た大きな方の包みを開く。
「小梢も座って、食べましょう?」
「はい」
ふう、と息をつきながら瞼を閉じる琳華。これは兄たちから教わったちょっとした精神統一の行為。すう、と呼吸を整えた琳華は包みを開いてくれている梢を見上げる。
「わたくしはどう振る舞ったらよいのか。どこにでも人の目や耳があり、いっときも休む間を与えられないと言うのは……なかなか堪えるわね」
「でもお嬢様、とっても順調だと思うのですが」
「小梢にはそう見える?それなら良いのだけど」
干し杏を口に運ぶ琳華の物憂げな表情。この後宮にたった一泊をしただけだと言うのに梢はもう、何度も見ている。
話によれば十日間は帰れない。長くなればひと月、後宮に滞在することとなる。
「不敬なことだけれど、選べるだけ良いのかしら」
誰が扉の向こうで聞き耳を立てているかも分からないので琳華は小声で囁くように皇子の正室と側室選びについて言及する。それは選ぶ余地すら与えられず、嫁いだその日に初めて結婚相手と顔を合わせることが珍しくも無い、自らも含めた世の中の女性の境遇も含め、婚姻に至るまでの慣わしを風刺しているようだった。
「立場がおありだとしても、自由に恋愛をなさることがあっても良いとわたくしは思うのだけど」
木の実をつまんでいた梢にそっと問いかける琳華もまた、女主人として一人の女性の自由を縛っていることは忘れずにいた。梢からは「家族がいない私にとっての幸せはお嬢様のそばにいることです」と言われたこともあったが、やはり……。
「周琳華はおしとやか。重いものなど持ったことがない……秀女の中では最年長で」
再び自分に言い聞かせているような琳華に梢は少し、心配になる。これは琳華にしか出来ない内定調査と言う役目だ。父親にそんな気がなくても末娘を手駒としている事に間違いはない。それでも琳華の父親は梢の生家である絽家が一家離散となった頃、奴隷として買われる寸前で助けてくれたのだ。本当の梢の父親は多分、亡くなっている。母親も幼かった梢を悪い商人から引き離す為に犠牲になり、消息が分からない。
