あなたは私のオランジェットの片割れ

 そういえば、もう二ヶ月くらい生理が来ていない。

 あの事件のショックと、環境の変化でのストレスかと思っていた。でも、もしかしてこれは……心当たりはある。

 しかしとりあえず、食中毒だとまずいので、蒼士に連絡しようとスマホを握り直した瞬間それが鳴った。驚いて落としそうになりながら画面を見ると、蒼士の名前。

 やっぱり食中毒なのかと、慌てて出た。

『――もしもし、杏?!』

「蒼士さん! 大丈夫?」

『は? えっ? 何が?』

「何がって、お腹……」

『ん? お腹はめちゃめちゃ減ってるけど。でもまだマチネの幕間だから、終わったら食べるよ』

 『幕間』は、舞台上演の中盤にある休憩時間のこと。そんな時間に電話をかけてくる事なんて今までなかったから驚いたけど、どうやらお腹の事じゃないみたいだったから少し安心した。

 でも、そうなると……?

「それより聞いてくれよ、杏!」

 思いを巡らせていたのを遮るように、蒼士はスマホの向こうで大声をだした。少し興奮もしているみたいだった。

「詳しい事は今ここでは言えないけど、凄いオファーが来た!」

「そうなの? 良かったね」

「どうしても最初に、杏に教えたくて!」

「ふふ、そんなに凄い事なんだ」

「ああ! 帰ったら話すから、待ってて!」

「うん」

 なんだろう? いつも冷静な蒼士が、こんなに興奮する事なんて、杏には想像もつかなかった。オファーって事は、仕事関係なんだろうけど。

 すぐに幕間の時間が終わってしまったようで、かけてきたのと同じくらい慌ただしく、蒼士は電話を切ってしまった。

 杏は自分の体の事も気にかかったが、なにかお祝いの支度をしておいた方がいいかな、と考え立ち上がる。蒼士の声を聞いたせいか、吐き気やだるさは、さっきよりは少しよくなっていた。

(ホールケーキを作っていて良かった。とりあえず、あれを仕上げてしまおう)

 杏は準備に取り掛かった。





◇◇◇