「――今日は夜まで?」
「うん、マチソワの後ミーティングもあるから遅くなりそう。でも明日は休演日だから、どっかデート行く?」
「休演日は休んでください!」
せっかく誘ってもらったのに、つれない返事を返す。我ながら可愛くないな、と思いながら杏は玄関から押し出すように蒼士を仕事に送り出した。
蒼士主演の舞台が始まっていた。舞台上演中は体力勝負で、食べても食べても痩せてしまうほどハードだ。現に蒼士は、始まってから随分と痩せてしまった。本人は、いつも通りだと言うが、杏は心配でならない。だから、休みの日はゆっくり休んでほしかった。
あれから――
蒼士の熱狂的なファンに斗馬が刺される、という衝撃の事件から三ヶ月ほどが経っていた。
案の定、マンションにはたくさんのマスコミが押しかけ、騒がれ。レポーターが、マンションから出て来る人を誰彼かまわずインタビューしたりと、居住者の迷惑になってしまったので、早々に引っ越しをせざるを得なかった。
今度もまたマンションだが、都心から少し離れた場所にしたので、緑が多くて静かで過ごしやすい。
でも杏の容姿はかろうじて保護されたものの、しつこいマスコミによって務めていた会社がバレてしまった。そうなると取材に押しかけてきたりと、ここでも大騒ぎの大混乱。
だから、杏は今は休職中。とても会社に通勤出来る状況ではない。退職にならなかったのは、杏は悪い事をしているわけではないと言ってくださった、社長の温情だ。
蒼士を送り出すと、杏はリビングに戻って朝食の片付けと掃除を始めた。ここ三ヵ月、家事は休職している杏の仕事だ。そうは言っても、二人分の食器と2LDKの部屋。大人二人暮らしだとそれ程散らかる事もなく、すぐに終わってしまう。


