「あの、会う事はできますか?」
「もう意識を取り戻しているので、短い時間なら問題はないでしょう」
「わかりました。ありがとうございます!」
医師が看護師に指示を出すと、看護師は杏を治療室に入れてくれた。
治療室に入ると斗馬は、ベッドの上で横たわったまま杏の方へ顔を向けた。あんなに血が流れていたからか、顔色はあまり良くないが、杏を見るとにこりと笑った。
「くずあん……お前は、怪我してないか?」
こんな時にまで斗馬は、人の心配をする。そんな彼の優しさと顔を見て安心して、杏の瞳から大粒の涙が溢れた。
「私は、全然平気だよ! 斗馬くんが助けてくれたから……!」
「ばーか、泣くなよ……良かった。あの犯人は……? どうなった?」
「大丈夫、逮捕されたよ。蒼士さんが、警察を呼んでくれた」
「蒼士先輩?」
「うん、あのマンションの部屋にいたから、騒ぎを聞きつけて出てきてくれたの。救急車を呼んでくれたのも蒼士さんだよ」
蒼士――名前を呼んだだけで、じんわりと心が温まる。
斗馬は気を失ってしまっていたから、刺された後の事は知らない。だから杏はざっくりと説明した。
杏の説明が終わると斗馬は、視線を天井へ向けおでこに手をあてる。そして大きなため息をはいたと同時に「そっか……」と、小さく呟いた。
「斗馬くん……?」
急に視線をそらせて黙り込んでしまった斗馬。具合が悪くなったのかと思い、看護師を呼ぼうとすると、斗馬はまた顔を杏に向けた。その顔は笑顔だ。だけど、無理をしているようにも見える。
「俺さ、今日はくずあんと蒼士先輩に婚約のお祝いを伝えようと思ってマンションに行ったんだ。それがあんな事件になって……びっくりだよな!」
そう言って、ははは、と笑った。
どうしてだろう。笑っているのに、なんだか悲しそうに見えた。


