あなたは私のオランジェットの片割れ

 大学病院の一般外来から離れた集中治療室の前の廊下で、備え付けられた長椅子に杏はひとり座っていた。服は斗馬の血で汚れたままだ。膝の上で祈るように組まれた手も、まだ少し震えている。

 あれから、救急搬送された斗馬は集中治療室に運び込まれていまだ出てこない。蒼士は駆けつけてくれた桐生と共に、杏の代わりに警察で事情聴取を受けてくれている。終わり次第、病院に来てくれると言っていた。

 平野麻友子は逮捕され、今は警察に勾留された。杏を襲った理由は、これからの裁判で明らかになるはずだ。精神状態がおかしかったようだったけど……。でも、前回のようなゆるいかんじではなく、再犯という事だし、今度は厳しく罰せられるだろう。

 杏の会社にも、今日は休むと連絡した。課長に事情を説明したが、動揺していたので上手く伝わらなかったようだった。何度も聞き返されたあげく欠勤の許可だけを出し、落ち着いたらまた連絡してくれ、と言われてしまった。実は杏は会社には蒼士と婚約した事を話してなかったから、この状況で説明するのはとても難しかった。もっとも、このあときっとマスコミが騒ぎ出す。課長はそれを見て全てを察してくれる気がする。

 斗馬の処置を震えながら待っていると、治療室の扉が開いて医師と看護師さんが出て来た。杏は慌てて立ち上がった。

「処置は終わりました。大丈夫です、命に別状は無いですよ。もう少し落ち着いたら、入院病棟にも移せます」

 心配して顔面が蒼白になっている杏を見て、医師はそう言ってくれた。並んでいる看護師もにこやかだ。杏はホッとしてやっと大きく息を吐いた。