あなたは私のオランジェットの片割れ

 朝の通勤通学の時間帯だ。杏たちの周りに、通行人たちが野次馬で集まり始めていた。

「……くずあん、は、怪我……してないか……?」

「私は全然大丈夫、斗馬くんが助けてくれたんだよ! もう、喋らないで!」

「なら、よかった……」

 そう言うと、抱きとめている斗馬の身体が、ガクンと重くなった。出血が多くて気を失ってしまったようだった。

「斗馬くん! 斗馬くん!!」

 何も出来ない自分がもどかしい。必死で傷口を押さえるが、両手が斗馬の血に染まってゆく。誰か救急車を呼んでくれただろうか。

 震える手でなんとか鞄の中からスマホを取り出そうとするけど、斗馬を抱えているので上手くいかない。周りの野次馬は関わるのが嫌なのか、携帯のカメラを向けているだけで誰も助けてくれそうになかった。

「――杏!」

 その時、蒼士の呼ぶ声が聞こえた。一瞬、幻聴かと思ったけれど、野次馬たちをかき分けてそばまで来てくれた、その姿を見たとたん、杏の瞳から涙が溢れてしまった。

「大丈夫だ、杏。救急車も警察も呼んだ。斗馬を俺に渡してくれ。よく、頑張ったな」

 蒼士の言葉に促され、杏は斗馬の身体を蒼士に渡した。涙と震えが止まらない。

(心の中で、ずっと蒼士さんを呼んでいた……)

 やがて遠くから、救急車とパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。





◇◇◇