あなたは私のオランジェットの片割れ

 それに、こんな大掛かりなCMなんて制作した事がない小さな会社の依頼。上手く伝達出来ていなくて、行き違いが起こってしまったのかもしれない。

 でもどうするんだろう? 絵コンテだと、彼が楽しそうにお菓子を作るシーンが主軸になっているみたいだった。それを簡単には変えられないだろう。

 会社の人もスタッフたちも、それで揉めているようだった。

「……ねえ、くずあんは自社の製品使ってお菓子作った事ある?」

「それはもちろん、あるけど……」

 一応、自分の会社で出しているお菓子キットは、自分で買い集めてひと通り作った。それに新商品が出ると毎回それも杏は作っていた。

 いつも作るお菓子はレシピ本見たりして一から作るけれど。自社のキットは、初心者でも簡単に出来るように作られている。材料だって全部計ったものが入っていて、至れり尽くせりだ。

「よし、分かった!」

「……? 何が?」

 斗馬は杏の問いかけには答えずに、スタッフたちが頭を突き合わせているキッチンセットの方へ行ってしまった。

 斗馬が話し合いをしているスタッフたちの中へ入っていって少しすると、輪の中にいた課長が杏を呼んだ。そして――

「葛原さん、お菓子作りの腕を見込んでお願いしたい。東雲さんの代わりにお菓子を作ってくれないだろうか」

「えっ?! なにそれ?!」

 思わず、素の声が出てしまった。それくらい驚いたのだ。

 課長の説明だと、杏がキットを使って作り、その要所要所で蒼士と入れ替わって撮影、ということらしい。チラリと手は映るかもしれないが、杏自体を映すことはしないという。そうすれば、CMの変更を最小限にすることが出来るということらしい。

 業務命令と言われてしまうと、杏に断る事は出来なかった。

 この状況を作ったのは、さっきおかしな質問をしていった斗馬だと杏には分かっていた。きっとスタッフたちに調子のいいことを吹き込んだんだろう。

 でも悪びれる様子もなく、目が合うと手なんて振っているので、杏はため息をこぼしながら肩を落とした。





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