あなたは私のオランジェットの片割れ

 ――蒼士が杏の事を初めて意識したのは、あのCM撮影の時だった。

 杏の会社『ほほえみ製菓』の創立記念CMの撮影が終わり、着替えて帰ろうとした時。セットの中でスタッフと話をしている杏の姿が目に映った。

 離れているので声は聞こえないが、どうやら撮影に使った、作りかけのお菓子の材料を貰っているようだった。

 撮影を手伝ってくれた時には、真面目そうな社員さん、くらいであまり気にしていなかった。でも、お菓子の生地を大事そうにラップで包んでいる表情が、嬉しそうで愛おしそうで、なんだか凄く印象的だった。

 だからか、仕事でお菓子作りを習うという話が出た時、一番最初に思い浮かんだのは、杏だった。

 接していくうちに、気がついた。杏のお菓子作りに対する愛情と真剣さ、からかうとすぐ真っ赤になる可愛らしさ。純粋で誠実。

 自分のいる芸能の世界は、誰かと競争し、相手を利用したり(おとしい)れたり。もちろん、楽しい事ややり甲斐もたくさんあるが、常に気を張っていないと、あっという間に闇に消えてしまうようなそんな不安定な世界だから。

 杏の擦れていない素直さや優しさに、蒼士は癒された。

 それがいつの間にか愛情に変わっていたのに気がついたのは、河原でカレンダー撮影をしていた時。対岸で後輩の斗馬と楽しそうにしている姿に、嫉妬した。

 杏を誰にも渡したくないと思った。誰の目にも触れない何処かへ閉じ込めて、自分だけのものにしたかった。

 嫉妬と愛情がごちゃ混ぜになって暴走し、その勢いで杏の元へ走った――

「――その後は、ご覧の通りのありさまだ」

 蒼士はそこまで告白すると、少し自嘲気味に笑った。