「私も、もっと蒼士さんに近付きたい、触れたい。でも……」
そこで言葉を切り顔を上げた杏は、今にも泣き出しそうな表情。
ずっと心に影を落としていた感情が、堰を切って溢れ出てしまう。
「でも……蒼士さん、無理をしていませんか?」
「え……?」
杏の問いかけに、今度は蒼士が眉を歪めた。
「私との婚約は契約です。だから……」
だから本当は、無理をして一緒にいるんじゃないだろうか。
蒼士が自分を好きになってくれたのは奇跡で、それがずっと続くとは思えなかった。
蒼士を信じていないわけじゃない。ただ、あまりにも住む世界が違うから……。
蒼士の周りには、綺麗な人や素敵な人がたくさんいる。それに比べたら、平凡な自分は所詮モブだろうし。それに芸能人同士でも、カップルや夫婦の破局なんてよくあることだし。
今、一緒に住んでいるのだって『偽装婚約』という契約があるからで……一年経ってこの契約が終わったら、二人の関係がどうなってしまうのか、考えるのが怖かった。
蒼士を好きになればなる程、不安も大きくなってしまう。お酒のおかげだろうか。杏はやっと不安を吐き出せた気がした。
蒼士はフッと優しく笑うと、杏の肩を抱き寄せた。
「どこから話そうか……俺が杏の事を、どれだけ好きか」


