「見えちゃダメな部分は見えないようにしてあるし。それに……」
隣に座っていた蒼士が、急に体を寄せてきた。そして杏の耳元で――
「今、抱きたいのは、杏だけだよ」
囁かれた、甘い言葉。
お酒のせいなんかじゃない。少し汗ばんでしまうほど、顔が熱くなる。蒼士はそんな杏の頬へ手をあてる。自分の方へ顔を向かせると、ゆっくりと唇を合わせた。
二度目のキスは、優しいキス。
唇の触れる柔らかい感触、杏はそれを堪能するように目を閉じた。突然、蒼士の舌が杏の唇を舐める。驚いてピクリと肩を震わせた一瞬、唇が離れた。あ! と思うとすぐにまた、今度は少し強めのキス。
そして杏の口内に、蒼士の舌が侵食してくる。甘く、柔らかく、杏の舌に蒼士の舌が絡みつく。
「ん……」
思わず溢れた、小さな呻き。こんな甘い声が自分の口から出た事に驚いた。蒼士の舌が杏の口の中を優しく探ってゆく。唾液がまるで媚薬かのように、杏の体を蝕み、頭がジンとしびれた。
唇が離れると、名残惜しさが胸に残る。
「もっと、杏に触れたい」
蒼士がそう言って見つめながら手を伸ばすと、杏は突然眉を歪め、拒否するように目をそらしうつむいた。
「杏……?」
「ご、ごめんなさい……」
絞り出したような杏の小さな声に、蒼士は困惑して手をひいた。
「いや、こっちこそ、ごめん」
黙り込む二人。TVで流しているドラマからは丁度、主人公とヒロインが喧嘩をしている声が聞こえる。
もっと触れてほしい。そして杏も、蒼士にもっと触れたい。
(同棲が始まって、ずっとそう思っていたのに……)
「焦らなくてもいいか。これからずっと一緒にいるんだもんな」
蒼士はそう言って杏の頭をポンと優しく撫でた。
「違う……違うんです」
「杏……?」
杏は苦しそうに胸を押さえた。


