あなたは私のオランジェットの片割れ

 休日もあと二日で終わろうとしていた頃、オランジェットを作ろう、という話が出ていた。一番最初は杏が作ったものが食べたい、と蒼士が言ったので、オランジェットは杏一人で作る事になった。

 今日は蒼士はまた朝から、芝居の稽古で出かけている。杏は一人でオレンジコンフィを仕込んだ。一度煮てしまえばあとは冷ますだけなので、その間に他の家事も片付けながら。

 夕方になり、夕飯はどうしようかな、蒼士は何時に帰るんだっけ? と考えていたら、玄関のインターホンが鳴った。

 オートロックの方じゃなくて、玄関の方だから、蒼士かな、と思ってモニターを見ると、やはりそうだった。

「おかえりなさい。鍵、忘れました?」

『いや、ちょっと荷物いっぱいだから、悪いけど開けてくれない?』

 「はい」と返事をして玄関へ。扉を開けると、そこには、足元に荷物を置いて両手を後ろで組んでいる蒼士がニコニコと立っていた。

「おかえりなさい、蒼士さん。その荷物、どうしたんです?」

 大小様々な袋に入った、何か。今朝、出た時はそんな大荷物持ってなかったはず。

「ただいま。芝居の仲間とかスタッフさんたちに、婚約祝いをたくさんいただいちゃって」

 荷物は全部、婚約祝いだと言う。嬉しい半面、騙しているようでちょっと心苦しい。

「それと、これ」

 蒼士は、後ろ手に持っていたものを差し出した。それは、両手いっぱいのカスミソウの花束だった。

「みんなにお祝い貰って、そういえば俺は杏になにもプレゼントしてなかったって気が付いたんだ。だからこれは、俺から杏にプレゼント。本当は指輪とかの方がよかったんだろうけど、それはまた今度、二人で選びに行こう」

 「花屋で随分悩んじゃった」そう言って、蒼士は恥ずかしそうに笑った。

 こんな何気ない、自覚のない、蒼士の優しいところが杏は好きだった。愛しさで胸がぎゅっとなる。

 指輪なんかより、ずっとずっと嬉しい。

 なんだか泣きそうになってしまい、それを隠すように、杏は慌てて「ありがとう」とお礼を言った。