あなたは私のオランジェットの片割れ


 蒼士の方が、一枚上手だった。こんなにドキドキさせられてて、この先一年もやっていけるんだろうか。

(心臓がもたない……)

 はあ、と息をはき出して気持ちを整える。でも顔はまだ、赤いままだった。


 そんな様子で始まった偽装婚約生活は、甘くて優しくて、順調だった。

 休みの間は、マスコミに追われるのも面倒だったので、あまり外へはでなかった。ほぼ部屋に引きこもり、二人でお菓子もたくさん作った。

 シュークリームにプリン。お菓子レッスンが中止になって作れなかったレアチーズケーキ。それに、蒼士のリクエストで、アイスボックスクッキーも。

 (もし本当に結婚したら、こんなふうに穏やかで楽しい生活がずっと続くのかな……)

 ――でも今は、偽装婚約者。

 終わりが来るのが分かっているから、こんなに楽しいのかもしれない。それに、偽装婚約が終わったら、二人の関係はどうなるんだろう。ただ恋人同士になるだけなのか、それとも全てが終わってしまうのか。

 ちゃんと付き合う前にこんな事になっちゃったから、なんだか夢をみているようでフワフワしてる。自分たちの関係も、なんたかフワフワ。

 熱愛報道されそうになった時に、『真剣に付き合いたいと思ってる』と言ってくれたから、蒼士気持ちは信じているけど……。

 同棲しているのに、あの河原でした時以外、キスもしていない。寝室も別々になったままだ。

 (これ以上を望むのは、ワガママなのかな……)

 杏の心の中にいつの間にか、小さな不安の種が生まれていた。





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