あなたは私のオランジェットの片割れ

 人当たりが良くていつもニコニコ楽しそうだったけれど、どこか冷めた所がある印象を持っていた。でも、こんなに情熱的な一面があったとは。

 同級生との意外な再会に、杏は驚きを隠せなかった。

「――それで、くずあんは? 製菓会社に勤めてるくらいだから、今でもお菓子大好きで、作ってんの?」

 そう言われて、杏は少し照れくさそうにエヘヘと笑った。

「それしか取り柄がないからね。でもだいぶ上達したんだよ?」

 斗馬も「相変わらずだな」と笑った。

 高校の時もお菓子を作っては、今のように周りの人に配っていた。斗馬もいつもその餌食になっていたからだ。

『くずあん』も、その時付いたあだ名だ。葛粉を調味料で煮て味をつけた和菓子のたれと、名前の『葛原杏』から付けられて。

『くずあん』、『くずあんちゃん』とか皆には呼ばれていた。

 ふたりが昔話に花を咲かせていると、突然、キッチンのセットの方からガラン! ガチャン! という大きな音が聞こえた。何か金属のものを盛大に落としたような大きな音。

 見ると、撮影が中断し、スタッフたちが右往左往。キッチンの床一面には白い粉がぶち撒けられていて、辺り一帯が少し霞んている。それが入っていたであろうボールも落ちていた。

 その中心に、無表情で立ち尽くしている蒼士の姿が。

 何があったんだろう? そう思い、斗馬と杏はセットの方へ少し近付いた。すると聞こえてきたのは、プロデューサーと揉めてるマネージャーの強めな声。

「――ですから、料理は東雲は不得手ですので、別のシーンを撮影して頂けませんか?!」

 料理が不得手なのに、よくこの仕事請け負ったなあ……と杏が考えていたら、それを見透かしたのか斗馬が言った。

「この仕事、先輩は断ってたんだよ。先輩、マジで料理出来ないみたいでさ。でも、大人の事情ってやつ? それで受けざるおえなくて……」

 なるほど、芸能人も大変だ。