引っ越しの翌日の朝、杏は物音で目が覚めた。時計を見たらまだ八時前だ。会社があるならともかく、休日ならまだ寝ている時間。自分のアパートじゃない事を思い出し、さすがにボサボサ頭のパジャマ姿ではまずいかなと、少し身支度を整えてからリビングへ。
リビングのドアを開けると蒼士がいて、「おはよう」と言ってくれたので、「おはようございます」と返した。
(なんだかまだ、不思議な気分……)
蒼士は杏とは違い、着替えと出かける準備をすでに済ませていた。
「起こした? ごめん。昨日言うの忘れてたけど、今日は朝から一日舞台稽古なんだ」
「そうだったんですね。朝ご飯食べる時間、ありますか? 簡単なのでよければ作りますよ」
「ありがとう。時間はまだあるから、作ってもらえるならすごく嬉しい! 行く途中コンビニ寄って買おうと思ってたから」
蒼士の表情が、嬉しそうにパッと明るくなった。
「すぐ作りますね」
杏もなんだか嬉しくなって、言いながらキッチンに入り、冷蔵庫を開けた。
昨日ロールケーキに使った卵があるし、バターも。あとは牛乳に砂糖。食パンもあるから、これならフレンチトーストが出来る。それに昨日の残りの生クリームとバナナをトッピングしたら、なんだかおやつみたいになっちゃったけど大丈夫かな。コーヒーは蒼士が淹れてくれた。
ドキドキしながらテーブルに置くと、またパッと彼は笑顔になった。
「すごっ! ヤバい、美味そう!」
自分の分も作っていたので、杏も蒼士の向かいに座る。そして、待ちきれない! と急かされて二人で「いただきます」と、手を合わせた。
「うっま!」
口に入れたとたん、蒼士がニコニコしながら言った。ナイフで切った一切れが凄く大きくて、頬が少し膨らんでいる。


