「うまっ!」
嬉しそうなキラキラの笑顔。杏も嬉しくなって、ひと口パクリ。うん、美味しく出来た。蒼士はあっという間に平らげてしまった。
「ごちそうさまでした。美味かった! また気が向いたら何か作ってくれると嬉しい。その時は俺も一緒にやりたい」
「もちろんです! 次は何がいいですか?」
いろいろと、蒼士に食べてもらいたいお菓子が思い浮かぶ。でもやっぱり一番は、オランジェットかな?
そんな事を考えながらロールケーキを食べ終わると、急に真面目な顔で蒼士は言った。
「杏、あのさ、偽装とはいえ、これから婚約者として一緒に暮らすから、ひとつ提案がある」
「なんですか?」
「それ!」
「えっ?」
何が「それ」なのかわからず、杏は首をかしげた。
「その敬語っていうか、丁寧語? やめよう。普通に喋ってよ、婚約者なんだから」
「ええっ! でも……」
「でも、じゃない。これからもしかしたら、外でレポーターに遭遇するかもしれない。そんな時に、よそよそしい話し方してたら変に思われるだろ?」
確かにそうかもしれないけど……。
「だから、これからは『です、ます』とか敬語禁止!」
禁止! と、ビシッと言い切られて杏は困ってしまった。
芸能人だし年上だし、そもそも会社の仕事で会った人だから、ずっとそうしてきたんだけど。今更、すごく言いにくい。
杏の気持ちを察したのか、蒼士は手を伸ばすと、彼女の頭をポンポンと優しく叩いた。
「まあ、禁止、ってのは冗談だけど。少しずつ慣れてくれればいいよ」
蒼士の笑顔。口角が上がって、くしゃっと笑う。整った顔が急に子どもみたいになって……好きだなぁ、って杏はあらためて想い、心臓がドキドキする。
そして、そんなことを考えている自分に気がついて恥ずかしくて頬が赤くなる。それを見た蒼士が「どうした?」なんて聞いてくるから、慌ててなんでもないと誤魔化した。


