「オーブンはありますか?」
「ああ、弁当とかの温めにしか使ってない、オーブンレンジでいいなら」
蒼士が指差した方を見ると、アイランドキッチンの壁沿いの棚に、大きなオーブンレンジが置かれていた。あれだけ大きければ、どんなお菓子でも出来そう。
これでコンビニ弁当温めるだけなんて、宝の持ち腐れも極まってる。
「じゅ、充分ですっ……! あの、簡単なお菓子ですが、引っ越し記念にこれから何か作りましょうか! 材料も買ってきてるので!」
立派なオーブンレンジを前に、お菓子作りたい欲でウズウズしてしまって、思わずそんな事を口走っていた。材料も、小麦粉とか砂糖とかは調理器具と一緒に送ってここにあるし、バターや卵は来る途中で買ってきた。
「え! 嬉しい! いいね、何が出来るの?」
「ロールケーキならすぐ出来ます!」
言いながら杏は、既に必要な物をダンボールからキッチンに出し始めていた。
宣言通り、杏は一時間でロールケーキを作った。生クリームだけのプレーンのにするつもりだったが、バナナとキウイが冷蔵庫にあったので使わせてもらい、フルーツロールケーキになった。
出来上がると、部屋中が甘い香りで満たされた。さっそく切って、リビングで二人で食べる事に。コーヒーを蒼士が入れてくれた。
「すごいな。本当に一時間でロールケーキが出来るんだ」
蒼士が感心したように言う。
「ロールケーキはデコレーションしなければ、それほど難しくはないんですよ。ただ本当は、もっと冷やせば切りやすかったんですけど……」
生クリームの作りが緩かったのか、冷蔵庫であまり休ませなかったからか。切る時に少し潰れて楕円形になってしまった。
でも蒼士は、そんなことは気にしていないようだった。「いただきます」と手を合わせると、パクリとひと口。


