あなたは私のオランジェットの片割れ

 リビングの隣の一部屋は、蒼士がベッドルームにしているようだ。杏はその隣の仕事部屋になっていたもう一部屋の方を使う事になった。

 仕事部屋といっても、本棚が壁一面に造り付けてあり、舞台とかの資料本がたくさん入れられているだけ。本や資料で散らかっているけど、少し片付ければ余裕で寝られそう。なので、そこに来客用の布団を敷いて眠る事にした。

「俺はベッドルームが一緒でも、全然問題ないんだけど。偽装だけど、婚約者だし」

「私は問題、あるんです! だってまだ、付き合ってもなかったし、交際ゼロ日で、手も繋いだこと無いのに……」

 キスはしちゃったけど。同じベッドで眠るなんて、今の杏には時期尚早だと思う。偽装婚約とか同棲とか、いろいろと順番を飛ばしちゃってるから、蒼士と恋人同士だということが杏はいまだに実感がわかないでいた。

「じゃあ、手、繋ぐ?」

 蒼士は手を差し出した。大きな手。女性の手とは違い、関節がしっかりしていてゴツゴツしている。そうっと杏も手を伸ばし、それを握ったが、向かい合わせだったから握手しているみたい。でも手を繋ぐって、こういうことだっけ?

「なんか違う……」

 杏が呟くと、蒼士はふはっと笑った。

「まあいいじゃん、これでも。これからよろしくな、杏」

 ぎゅっと握られた、手。杏も握り返した。

「よろしくお願いします!」

 荷物をとりあえず自分の部屋に片付けてリビングへ行くと、キッチンの所に積まれたダンボールの前に蒼士が立っていた。

「今朝、宅配便で届いたんだ。杏宛だけど、これも荷物?」

「あっそれ、私が自分で送ったんです」

 言いながら杏は、ダンボールを開けた。

「きっと蒼士さんのキッチンには無いと思って」

 取り出したのは、お菓子作りに必要な様々な調理器具がどっさり。