あなたは私のオランジェットの片割れ

 桐生は暫く黙り込み、何かを考えているようだった。そして、口を開いたと思ったらとんでもないことを言ったのだ。

「――じゃあ、いっそのこと、婚約者にしちゃいましょう!」

「こっ! 婚約者?!」

 杏は驚き過ぎて、大きな声が出てしまった。蒼士は笑っている。

「落ち着いて、杏ちゃん。交際発表よりも、結婚の方が印象は格段に良いわ。だから、結婚を前提にお付き合いしている婚約者ですって事にするの。どうせ発表するなら、ドーン! と大きく出ましょう。くだらない週刊誌の記事なんて消し飛ばすくらいに!」

 確かに、他の芸能人の恋愛事情を考えても、ただ付き合ってますという熱愛報道では離れてしまうファンも多いが、結婚や婚約では概ね祝福ムードになる気がする。でも……。

「俺は本当に、杏と結婚してもいいと思ってる」

 蒼士は杏の目を見て、ハッキリと言ってくれた。これはもしかしてプロポーズになるのかな? 劇団のミーティングルームでプロポーズなんて、ロマンもなにも無いけれど。

 でも、杏も真剣に答えなければいけない。急展開すぎてなかなか決断出来なかいが、それも仕方ないだろう。結婚なんてそんな簡単に決めるものではない。

 (蒼士さんの事は好きだけど、まだ結婚なんて考えてもいなかった……)

「――じゃあ、こうするのはどう?」

 決めかねている杏を見て、桐生が別の提案を出した。

「一年、っていう契約ではどう?」

「一年?」

 杏と蒼士は同時に聞き返した。

 それに、契約って……

「一年契約の婚約者ってことよ。それぐらいなら、多少粗が出てもバレないだろうし。一年経ったら、結婚を発表するのも別れても、どちらでもいいわ。その頃には、スキャンダルも下火になっているだろうし。どうかしら?」