あなたは私のオランジェットの片割れ

 これが恋なんだと杏が自覚したのは、ついさっきだ。それなのに、こんな急展開になってしまって、心も頭も追い付かない。蒼士が何を考えてこうしているのか分からない。

 恥ずかしさとパニックでいたたまれなくなり、もぞりと動くと、腕が緩み少し体を離してくれた。

 それでもまだ密着したまま、蒼士の手が杏の頬にあてられた。

「……傷、まだ残ってる」

 あの時の傷だ。見た目はメイクでカバーできるが、触ると分かってしまう。

「もう大丈夫です。すぐ、治ります」

 蒼士は杏を見つめる。杏も顔を見たいが、距離が近すぎてダメだった。顔をそむけていないと、息がかかりそうなくらい近い。

 でも蒼士の手は、それを許してくれなかった。ぐい、と力を入れられ、顔を上げさせられる。

 近距離で、バチリと彼と目が合った。

 光を反射していてキラキラとした、綺麗な蒼士の瞳。じっと見つめていると、吸い込まれそうだ。その瞳がゆっくりと近づいてくる。

 自然と重なった、唇。柔らかい感触。

 触れた瞬間、一度離れたが、またすぐに吸い寄せられるように重なる。

 これでも杏は、二十七年生きてきたから、少ない人数だがお付き合いした人もいるし、初めてではない。それなのに、まるでファーストキスみたいな気持ちだった。心臓が賑やかなパーティーを開いているかのように、音を立てている。

 頭の隅の方で、「ああ私、東雲蒼士とキスしてる……」そんな事を考えながら、杏は静かに目を閉じた。





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