「あれ、もしかして自覚、無かった?」
「自覚って……え? ええっ?!」
心臓が、ドッドッドッ、って凄い音で鳴っている。頑張って呼吸しないと、止まってしまいそうで。それくらい杏は動揺していた。
「違う? 俺の早とちり?」
「ええ、と……」
(私が蒼士さんを、好き……?)
想っただけで、じわっと胸から温かさが全身に広がった。
彼の、キラキラとした笑顔、強い光を持った瞳。芝居への情熱や愛情。手の温もりと、守ってくれた腕の中の安心感。思い出すと心臓がドキドキして、体温が上がる。
(ああ私、蒼士さんが好きなんだ……)
だから、お菓子レッスンが終わりになって、蒼士に会えなくなってしまい、寂しくて、悲しくて。ため息ばかりついてしまっていたんだ。
自覚し納得したとたん、じわりと涙が滲んでくる。それに気付いた斗馬は困った顔で、杏の頭をポンポンと優しく撫でた。
「なんだよ、今自覚したのか。……俺もお人好しだよな」
ははっと、斗馬は自嘲気味に笑った。杏は瞳に涙を溜めながら、泣き笑い。
「それが斗馬くんの、いいところだよ」
「そうか? でもそれじゃあ、一生報われないじゃん」
「そうかも」
どっと二人で笑った。
その時、ガシャっと、二人の後ろで強く石を踏みしめた音が聞こえた。何事かと振り返ると、そこに立っていたのは、驚いた事に、東雲蒼士だった。走って来たのか、はあはあと、肩で息をしている。
でもどうして? さっきまで、対岸で撮影していたはずなのに。
――蒼士が二人に気付いたのは、偶然だった。撮影が一通り終わり、写真の確認と休憩になった時。何気なく対岸に目をやると、カップルらしき男女の姿。


