あなたは私のオランジェットの片割れ

 少し長めの黒髪。洋服に隠れているけど、足が長くてスタイルが良いのが分かる。身長はそれほど高くなさそう。それでも周りにいる男性たちよりは少し高くて、170センチ中判くらいだろうか。なにより印象的なのは、優しそうな笑顔。三十一歳らしいが、クシャッと笑った笑顔は年より若く見える。

 『王子様』という愛称も頷ける。

 後ろの男女も美形だし。芸能人って、やはりオーラが違うようだ。

 撮影が始まると、杏は蒼士たち三人に付いているようにと言われた。彼らを更衣室に案内したりお茶やお弁当を出したりと、本当に雑用をするために。ようするに、接待係だ。課長は広報たちが集まっている方へいってしまった。

 しかし、彼らは杏よりもずっと撮影に慣れていて要領もいい。結局、更衣室へ案内したあとは、杏はボケっと側に付いているだけだった。

 着替えやメイクも済み、蒼士と女性がセットの方でいろいろ打ち合わせをしているのをぼんやりみていた。女性は蒼士のマネージャーだそうだ。

「――すみません」

 不意に、声を掛けられた。声の方へ顔を向けると、蒼士と一緒に来た男性が立っていた。茶髪の方だ。

 杏よりもはるかに高い身長。そういえば、蒼士よりも高かった。自然と杏は見上げる姿勢に。

 彼も東雲蒼士と同じ劇団に所属している俳優だとさっき紹介されている。杏と同い年で、まだデビュー前だそうだ。今日は勉強の為に見学に来ているらしい。

(名前はなんて言ったかな……)

 色素の薄い茶色い髪と瞳。背が高いから足も長くて、スタイルが良い。東雲蒼士もそうだっが、芸能人ってみんなこんななんだろうか。

「何かお困りですか?」

 思わず見惚れてしまいそうだったけど、自分に課せられた仕事を思い出して言った。

「いえ、そうじゃなくて……間違ってたらごめんなさい。葛原杏さん、ですか?」