「――止めろ!」
杏の耳元で、大きな声がした。縮こまっていた杏を庇うように、肩を抱き寄せられた。目を開けた杏が見たのは、蒼士の横顔だった。
「そ、蒼士、さん……?」
驚いた杏が名前を呼ぶと、肩に回された手にぐっと力が入った。
突然の東雲蒼士の登場に、女性は驚きのあまり固まっている。
「――そのまま、動かないで。警察を呼んだわ」
蒼士の向こう側から、また別の人物の声がした。蒼士と一緒に帰ったはずの、桐生だ。そのまた向こうには、警備員と走って来る課長の姿。
みんなの姿にホッとしたとたん、身体が震えてきた。それに気がついたのか、蒼士は杏を優しく抱きしめてくれた。
(帰ったはずなのに、どうして蒼士さんが……?)
「振り返ったら杏が襲われてるのが見えたんだ。もう大丈夫だ」
二人は、杏が襲われている事に気が付き、戻って来てくれたのだった。蒼士に抱きしめられている安堵感で、震えは徐々に治まってゆく。
「……あなた、平野麻友子さんね?」
桐生は、女性に向かって言った。ビクリと女性の肩が反応した。
「劇団で注意喚起が出てるのよ。熱狂的な東雲蒼士ファンで、行き過ぎた応援行為が頻繁にあるって。東雲蒼士の出演するうちの劇団の公演はほぼ全て出禁になっているわよね。あと蒼士に、接近禁止令も出てるはずよね?」
「だって! それは! ……この女が悪いのよ!」
麻友子は叫びながら杏を指差した。
(だから、どうしてそこに私が関係してくるの? 初めて会ったのに!)
麻友子の言い分に、桐生は呆れたようにため息をついた。
「話は警察で聞きますから」
桐生がそう言ったのと同時に、警察のパトカーのサイレンの音が聞こえた。
◇◇◇


