あなたは私のオランジェットの片割れ


「葛原さんには丁寧に教えていただけて、とても勉強になっています。今後の役作りにも大いに参考になるので、まだ続けたいと思っています! ですから、終了、ではなく、延期という方向でお願いします!」

 蒼士の勢いに気圧され、社長は、「あ、ああ、分かりました」なんて、引き気味に返事を返していた。

 でも……なんだか、嬉しかった。

 なし崩し的にやる事になったお菓子レッスンだったから、それほど重要視されてないとずっと思っていた。だから、自分でも役に立ってるんだなって分かって、本当に嬉しい。

 それだけで心が温かくなる。

 蒼士をちらりと盗み見ると、彼も優しく微笑みながらこちらを見ていた。


 桐生の言うところの『お詫び行脚』が済み杏は課長と、二人を見送る為に一緒に外へ出た。

 いつの間にか空には黒い雲が広がっていて、まだ夕方にもならないのに辺りは薄暗くなている。また、ゲリラ豪雨にでもなるのかもしれない。

 会社の前でお互いが社会人としての社交辞令を交わし合い、和やかに解散となった。帰り際に桐生に「杏ちゃん、またお菓子レッスン再開する時は連絡するわね」と言われた。

 そして、課長と一緒に会社の中へ戻ろうとした時だった。

 入り口脇の植え込みから、杏たちの前に女性が飛び出してきたのだ。突然だったので驚いて止まると、女性と目が合った。

 恰幅のいい、杏より年上っぽい女の人。腰まで長い黒髪が印象的だ。前髪も目を覆うくらい長く伸ばし、黒いシャツに紺色のロングスカートという服装がなんだか異様で目が離せない。課長もそうみたいで、杏と同じ様にじっと固まったように女性を見ている。

「あ、あの、何か御用ですか……?」