「――という事で、今回はご迷惑をお掛けして、大変申し訳ありませんでした」
来客用の応接室で、社長と専務の対面に座っている桐生と蒼士が、深々と頭を下げた。杏は課長と並んで、少し離れた場所で簡易的に置かれた椅子に座っていた。
桐生との電話の後、フロアに戻ると課長に呼ばれて、本当に同席する事になったのだ。
『お詫び行脚』なんて桐生が言っていたので、どうなるかドキドキしていたが、謝罪もそこそこに、社長も「いえいえ、私どもは東雲さんを信じていましたから」――なんて、調子のいいこと言って、概ね和やかな雰囲気。CMの第二弾も検討しているとか、重大発表も飛び出したりも。
(蒼士さん、元気そうで良かった……)
マネージャーの隣に静かに座っている彼と一度目が合ったが、ニコリと微笑まれただけで話す事は出来なかった。こんな場だから当たり前だけど。
でも、この場にどうして自分の同席が必要なのか、杏には分からなかった。
「――それで、今、御社の社員の葛原様にお菓子レッスンをお願いしているんですが……」
桐生の口から唐突にお菓子レッスンが話題に上り、杏に視線が集まった。ここにいる全員は、杏がやっているお菓子レッスンの事を知っている。
「今はこのような状況ですので、落ち着くまで暫くは、レッスンの延期をお願いしたいんです」
「こちらはかまいませんよ。なあ、葛原くん」
「は、はいっ!」
急に社長から話しかけられ、慌てて返事をした。
「もしスクープがご心配でしたら、これでレッスンを終了、という事にしても――」
「――いえ! 私は続けたいんです!」
お菓子レッスンの終了、社長がそんな事を言い出すと、蒼士が食い気味に拒否した。


