あなたは私のオランジェットの片割れ


「やっぱり、いいな」

「え?」

 蒼士がベッドの端に腰かける。ギシリと音がした。

「杏は、嘘とか騙しとか……そういう汚い事が全然無くて、安心する」

 俳優って、芸能界って大変そうだよね。それに蒼士くらいになると、終始人の目が追ってくるだろうし。

 気が休まる時なんて、あまり無いのかもしれない。

「そんなことないです。私だって、嘘ぐらいつきますよ」

「例えばどんな?」

「ええと……次のレッスンに、オランジェット作ってきます、とか」

 結局、レッスン自体が中止になってしまった。一応、こつこつオランジェットは作っていたが、未完成で冷蔵庫に入っている。

「それは仕方ないだろ。体調悪くなったのはワザとじゃないんだし」

「そうですけど……」

 悩み過ぎて体調を崩すなんて、やはり自分の責任だとは思う。

「あっ! 俺、気がついちゃったんだけど、オランジェットって作るのに時間かかるって言ってたよな? もしかして、途中まで作ってた?」

「ああ、はい。冷蔵庫に作りかけがありますけど」

「見ていい?」

「どうぞ」

 杏がそう言いながら上半身を起こすと蒼士は立ち上がり、冷蔵庫の前まで行って嬉しそうに開けた。人んちで冷蔵庫開けてる人気俳優ってレアかもしれない。

 タッパーの蓋を開けると、甘いオレンジの香り。

「おお! なんか凄い!」

 蒼士が覗いているタッパーの中には、何度も煮たり冷ましたりで、果肉が透き通った輪切りのオレンジが入っている。まだシロップに漬けられているが、後はオーブンでジワジワと焼き、乾かしたらチョコレートでコーティング。だからもう少しでオランジェットが出来上がるところだったのに。