「家の場所も、桐生さんに聞いたんですか?」
「いや、それは……斗馬に聞いたんだ。桐生さんに聞くと、お見舞いなんて絶対ダメって言われるから」
急に出て来た彼の名前に、心臓がドキリと跳ねた。
聞くと、斗馬は今日は地方で公演の先輩の舞台を観に行っているらしい。
「あいつ、本当は自分で来たかったみたいだけど、代わりに俺に行ってくれってすっげぇ嫌そうに教えてくれた」
「そうなんですね……」
少し、ホッとしてしまった。今はまだ、会うのは気が引ける。
急に、蒼士の手が杏の方へ伸び、おでこにあてられた。その熱さを確かめると、蒼士の眉が怒ったように歪んだ。
「まだ結構熱高いな、寝ろ!」
「は、はい! じゃあ蒼士さん、わざわざお見舞いに来てくださってありがとうございました」
当然、蒼士はもう帰るものだと思っていた。たけど……
「いや……まだ帰らないよ」
「えっ?」
彼は背負っていた自分のリュックをおろし、キャップを脱ぐ。そしてどっかりとあぐらで座り込んだ。
「俺はここにいるから、杏は寝ろ」
「ここにいるからって……蒼士さん、仕事は?」
「熱が出てる時は、側に誰かいた方が安心できるだろ。それに今日の仕事はもう終わった。明日の午前中も、お菓子レッスンが中止で、オフになったから時間はある」
「でも……」
杏が蒼士を気遣い、更に何か言おうとしたところで、彼からの無言の圧力を感じた。
「寝ろ!」
「ひゃいぃ!」
蒼士の方が一枚上手で、杏はすごすごとベッドへ入った。


