あなたは私のオランジェットの片割れ

 課長がタクシーを呼び、和田が付き添い病院へ連れて行ってくれた。その後は自宅に強制送還。病院での診断は、疲労による発熱。寝不足ということもあり自律神経の乱れが原因らしい。薬を飲んで安静にしていれば、じきに熱も下がるだろうとのこと。

 和田は杏がアパートの部屋に寝かせてから帰った。ここへ来る途中、ドラッグストアで冷却枕や水分補給用の飲み物等も買ってくれて、感謝しかない。普段は噂話ばかりで少しうるさいとも思っていたが、本当は優しい先輩だ。

 金曜日の夕方前。まだ日は高くて、平日のこんな時間にベッドで寝たり家にいたりなんてあまりしないから、熱で体がダルいけどなんだか寝付けない。

 TVとか、音の出るものがついてないからか、外の音が聞こえてくる。このアパートは公園が近いので、遊んでいる子どもの楽しそうな甲高い歓声や、道を行く車の音がよく聞こえる。時々、強い風が吹き、隣の部屋のベランダ物干しにいつも吊るされっぱなしのピンチハンガーがカラカラと音をたてる。

 そんな音を、杏は熱のあるぼんやりした頭で聞いていた。

(私、バカみたいだ……)

 悩み過ぎて熱を出すなんて。斗馬は時々ふざけたりするけど、優しくて楽しくて。彼女になったらきっと凄く大切にしてもらえる。

 でも、そうなりたい、と思えないという事は――それが答えなんじゃないだろうか。

 ……本当は分かってた。決断出来なかったのは、断ったら斗馬との友達関係も終わってしまうかもしれないのが怖かったから。斗馬はそんな人じゃないのはわかってる。でも、今までと全く同じ関係ではいられない。それが嫌だった。

(ただのわがまま、だよね……)

 ふう、と、熱を含んだ熱い息をはくと、悩んでドロドロとしているような気がしてた頭の中が、少しスッキリしたような気がした。