あなたは私のオランジェットの片割れ


 『東雲蒼士(しののめそうし)

 現在三十一歳。子供の頃から子役として大手劇団に所属。十代後半に主演した舞台が高評価で話題になり、それから注目されるようになった。

 活動は舞台演劇が主で、テレビにはあまり露出しないが稀にドラマに出演すると、その整った顔立ちや演技力で話題になる。

 現在はモデルや俳優など多方面で活躍している

 ファンの間では『王子様』をもじって『蒼士様』という愛称で呼ばれる事も』

 そこまで読んで、杏は持っていたファイルを静かに閉じた。

 社用車の後部座席。運転は課長がしている。本当は立場的に逆なんだろうが、杏は車の免許を持っていないので仕方ない。

 課長と一緒に、CM撮影のスタジオへ向かっているところだった。スタジオはレンタルで、会社から車で十分程。

 お昼ご飯を食べたばかりだから、車に揺られていると眠くなってしまう。あくびを噛み殺しながら、杏は手にしていたファイルを鞄にしまった。

 それは、『知らな過ぎることも罪だぞ』と、課長に言われて渡された、かの俳優の略歴が書かれたもの。

 確かに、大事な記念事業に力を貸してくれる方なのに、社の者が何も知らないなんて失礼だ。自分は雑用に行くだけだから関わることはないだろうが、それでも最低限の知識はあった方が無難だと杏も思っていた。

(CM撮影って、どのくらいで終わるんだろう? 早く終わったら直帰できるだろうから、帰ったらお菓子作りたいな……)

 杏が窓の外を眺めながら、のんびりそんなことを考えていると、社用車は貸しスタジオの駐車場へ入って行った。