あなたは私のオランジェットの片割れ

 マンションから出ると、外は夏の太陽がギラギラしていた。部屋はエアコンが効いていたから、その温度差にクラクラする。早く駅まで行って、エアコンの効いたショッピングモールに入ってしまおうと、杏は足を速めた。

 歩き始めて少しして、後ろから声を掛けられた。始めはそら耳かな? と思ったが、『くずあん』とハッキリ呼ばれると、足を止めて振り返った。そんな呼び方するのは、一人しかいない。

「斗馬くん?! 先に帰ったんじゃなかったの?」

「くずあんの事、待ってたんだ」

 斗馬がマンションを出たのは、杏が出て来た今より三十分も前だ。何処で待っていたのかは分からないが、斗馬の顔が暑さで赤くなっている。

 それにどこか思い詰めたような表情だった。

「とりあえず、その辺でお店に入ろう。斗馬くん、熱中症になっちゃうよ」

 杏がそう提案すると、斗馬は無言で頷いた。


 でも駅までの道、カフェはあまり無くて、あっても混雑しててすぐには入れなさそうだった。仕方がないので、コンビニのイートインコーナーにコーヒーを買って座った。人通りの少ないところのコンビニにしたので、店内には、店員の他には誰もいなかった。

「――それで、どうして私を待ってたの? 何か用事? メッセージ入れてくれればよかったのに」

「いや……直接、話したかったんだ」

 何だかいつもと様子が違う。マンションでお菓子を作っていた時は、いつもの彼だったのに。

 斗馬はニコリともせずに、コンビニで買ったコーヒーをぐいと飲んだ。

 人目を避ける為に黒いキャップを被り、縁の太い眼鏡。蒼士と斗馬の所属している劇団は俳優たちの管理が厳しめらしい。二人も大変だな、なんてぼんやり考えながら、杏は斗馬が話し始めるのを待っていた。

 斗馬はもうひと口、コーヒーを飲んだ。