あなたは私のオランジェットの片割れ


「いや、違う。よく聞いてた?」

「え?」

「俺は、杏が作ったオランジェットが食べたいって言ったの」

 それはつまり、次のレッスンまでに作ってこいって事みたいだ。一週間あればまあ、作れるけど……

 (さっき話してたから、食べたくなっちゃったのかな?)

「じゃあ、私がオランジェットを作ってくればいいんですか?」

 杏がそう理解して尋ねると、蒼士はプイっと視線を逸らした。頬が少し赤い。

「だって、俺は杏のオランジェット、食べた事ないし……」

 さっき高校の頃の話で、バレンタインにオランジェットを作ってたって斗馬が言っていたから、どうやらそのせいらしい。それにしても、自分だけ食べてない、って拗ねるなんて、子どもみたいでなんだかちょっと可愛い。

「わかりました。じゃあ次のレッスンの時までに、オランジェット作ってきますね」

 杏がそう言うと、蒼士は嬉しそうにパッと笑った。

 杏が蒼士に初めて会った時は、全身からキラキラしたオーラが溢れ出て、俳優ならではの特別感が凄かったけど。お菓子レッスンで話したり、からかわれたり、知っていくうちにどんどん違う面が見えてきた。

 優しいだけの王子様じゃなくて、ダラっとしてたり拗ねたり、子どもっぽかったり……ギャップがすごい。

 でもそれが、嫌じゃないのはどうしてだろう?

「そういえば、次のお菓子レッスンで作るもの、まだ決めてなかったですけど、東雲さん……蒼士さん、は、何がいいですか?」

 うっかり『東雲さん』と言ってしまい、あわてて『蒼士さん』に直した。彼はその様子に満足そうだったけど。まだ、慣れない。

「次も斗馬、来るの?」

 さっき斗馬が帰る時、「また来週な!」と、言っていたからきっと来るだろう。