あなたは私のオランジェットの片割れ

 俳優デビュー前とはいえ、SNSで自分を知ってもらうのは、後々、ファンになってもらうのに大切な事のようだ。斗馬も個人のSNSアカウントを持っていた。

 なんだかちょっと拗ねたように、スマホを手にリビングの方へ行ってしまった。今日の斗馬は、笑ったり拗ねたり、情緒が安定しなくて忙しい。


 杏と蒼士が片付けを終え、桐生に手伝ってもらい写真を撮った斗馬がSNSに投稿し終わった時。オーブンから丁度、パウンドケーキが焼けたピーという音がした。

 部屋中が、甘い美味しそうな香りで満たされている。

 前回のクッキーと違い、今日は分けて持ち帰るほど量が無いので、みんなで食べてしまう事にした。

 切り分けるとオレンジの香りも立ち上り、生地はふわふわで美味しそう。形も初めてにしてはまあまあ綺麗。蒼士と斗馬、二人とも初心者なのに凄い。意外とお菓子を作るの、むいているのかもしれない、と杏は思った。

 桐生がキッチンの棚に置いてあった紅茶をいれてくれ、リビングに全員着席すると、ちょっとしたお茶会みたいだ。

 杏と桐生が並んで座り、蒼士と斗馬はその向かい側。テーブルを挟んだ杏の前に蒼士が座っていた。

 食べ始めたとたん、蒼士の目が輝いた。

「うっま! オレンジピール入ってるけど甘すぎないしオレンジの風味が爽やかで、俺、これ好きかも」

「それなら、良かったです」

 杏はホッと胸を撫で下ろした。半ば無理矢理お菓子レッスンの先生にされたけど、教えたお菓子が美味しくなかったらやっぱり責任を感じてしまう。

 どうやら蒼士の口に合ったようで、本当に良かった。

「この前のクッキーと、このパウンドケーキって、作り方は本とか見てるの?」

 よほど気に入ったんだろう、ふたつ目のケーキを頬張りながら蒼士は言った。

「ええと、始めは本とかネットのレシピで作ってたんですけど、少しずつ自分で作りやすいようにとか、好きな味に変えたりしてます」

「へえ、そうなんだ、凄いな。じゃあこの味は杏が好きな味なのか。味の好み、俺と同じなんだな」

 そう言われると何だか恥ずかしくて、杏は頬を染めた。