「――じゃあ、今回はオレンジピールの入ったパウンドケーキを作ります……」
そう言った杏の目の前には、東雲蒼士と須直斗馬が立っていた。
今回から参加の斗馬はニコニコ楽しそうだが、蒼士は黒縁メガネ姿で疲れたような大あくび。もしかしたら、またこのマンションに泊まったのかもしれない。
「蒼士先輩、疲れて眠いなら奥の部屋で寝てたらどうですか? 代わりに俺がお菓子作っときますよ」
「ばーか! それじゃあ意味ないだろ。大丈夫、これ終わったら今日はオフだから」
「あっ、そうなんっスね」
どうしてこんなに斗馬は、お菓子作りにやる気満々なんだろう。不思議に思ったが、杏は段取りを進めた。
バターを泡だて器でクリーム状にして、そこへ卵と小麦粉、ベーキングパウダーとかを入れて混ぜ、最後に小さく刻んだオレンジピールを入れ型に流す。あとは、温めておいたオーブンで45分くらい焼けば出来上がり。
焼いている間にまた、杏が片付けを始めると蒼士もそれを手伝う。なんだかそれが当たり前みたいな空気が不思議。
でも、悪くない……。
そんな二人に、斗馬が慌てた様子で割り込んできた。
「蒼士先輩! 片付けなら俺がやります! 先輩は休んでてください!」
「いいんだよ、これもレッスンの一環だから」
な、って、同意を求めるように蒼士は杏と視線を合わせた。
――片付けも役作りに繋がってる。
前回のそんな話が、二人だけの暗黙の了解みたいで。なんだか少し嬉しい気持ち。
「……なんか、ずりぃな」
「え? 斗馬くん、何か言った?」
囁くように放たれた言葉。杏は聞き返したが、彼は何でもない、と首を横に振った。
「片付けは間に合ってるみたいだから、俺はじゃあ、SNSに投稿する自撮りしようかな!」


