あなたは私のオランジェットの片割れ


「うーん、俺、お菓子なんて食べるだけで、あまり知らないからなあ……」

 蒼士は暫く考えてから、突然、何かを思い出したふうに言った。

「そうだ、あれ……オレンジの輪切りに、チョコレートかけたやつ、なんていうんだっけ?」

「……オランジェット、ですか?」

「そうだ、それ! オランジェット! あれって作れる? 俺、お菓子はあれが一番好きなんだけど」

 杏は思わず目を見張った。

「えっ、何? 俺、なにか変な事、言った? それともオランジェットは難しくて無理って事?」

「あ! いえ、違うんです。オランジェット、私も大好きなので同じだなって思って……」

 今度は蒼士の表情がパッと明るく変わった。

「そうなんだ、すごい偶然! じゃあ、次回はオランジェットにしよう!」

「あ、いえ……あれは作るのに少し時間のかかるものなので、レッスン時間的に厳しいです」

「そうなのか……」

 作れない、と分かったとたん、しょんぼりしてしまう蒼士がなんだか可愛いと杏は思ってしまった。イケメンで人当たりが良くて、でもちょっと意地悪なところもあったり、優しかったり可愛かったり。

 なんだか今日は、俳優だけじゃない、蒼士のいろいろなところを知れた気がする。

「オランジェットは無理ですが、オレンジピールを入れたパウンドケーキなんてどうですか? オレンジピールは私が、前に作ったのを冷凍してますから」

「オランジェットは残念だけど、それもいいね」

 話がまとまったところで桐生が、「蒼士、そろそろ移動しないと」と、蒼士と時計を見比べたので、今回のレッスンは終了となった。





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