その後は、小麦粉を片付けて何事もなくレッスンを始めた。だけど杏は、蒼士が気になって仕方がなかった。蒼士の方は全然普通の態度だ。自分だけ意識してしまっているのがなんだか悔しくて、杏はクッキー作りに集中することにした。
お菓子作りは身を助く、だ。
今回、杏が準備したのは作りやすいアイスボックスクッキー。生地を冷蔵庫で冷やし、その後包丁でカットして焼くクッキーは初心者むけだ。バニラ生地とココア生地2つを作って、市松模様やマーブル模様を作るのも楽しい。綺麗に出来ると見栄えもいいし。
蒼士は調理器具を使うのに少し手こずっていたが、それもすぐに慣れたみたいだった。元々、器用なんだろう。
形成した生地を天板に並べ、あらかじめ温めておいたオーブンに入れた。時間をセットして、あとは焼き上がるのを待つばかり。その間に杏は、使った物を片付けてしまおう、と思って調理器具を洗いだした。すぐに蒼士も隣に立ち、洗い終わったものを布巾で拭き始める。
「俺もやるよ、杏」
「あ……! そんな、いえ、大丈夫です! 休んでいてください!」
人気俳優に片付けの手伝いなんてさせられない。そんなのさせたら怒られてしまうかもしれないし。思わずリビングの桐生をチラリと見たが、彼女はこちらなんて気にせずにノートPCでなにやら仕事をしていた。
「腕利きパティシエでも、作った後は片付けくらいするだろ。それに、こういう何気ない事も人物の行動や思考に反映されたりするんだ」
(なんだか、意外。こんなに真面目なんだ……)
寝ぼけてスウェット姿で現れたり、人をからかって笑ったり。お菓子作りのレッスンなんて、仕事だからやるだけで、本当は面倒であまりやる気もないかな、って少し思っていたから。


