あなたは私のオランジェットの片割れ


 斗馬は急に立ち止まって黙り込んだ。その様子に杏も立ち止まったが、彼は微動だにしなかった。

 顔だけどんどん赤くなる。

「斗馬くん? どうかしたの?」

 杏が声を掛けると斗馬は、驚いたように一瞬ビクリと身体を震わせたが、すぐに歩き出した。顔はまだ赤いままだったが。

「――それに、材料費が全部事務所持ちで、好きなお菓子作りまくれるんだから、くずあんにとっても悪い話じゃないんじゃねーの?」

「それはそうだけど……」

 今度は斗馬が早足で歩く。背が高い分、足も長くて、杏は走るように必死について行った。

 今立ち止まったのは何だったのか。聞こうと思ったけれど、必死に斗馬に合わせて歩いていたら、駅に着いてしまった。

「……今日は本当にごめん。くずあんのこと、頼りにしてるから、蒼士先輩のことよろしく頼む」

 斗馬はそう言って頭を下げた。そうまでされてしまっては、杏ももう何も言えない。「仕方ないなぁ……」と、諦めたように呟くと二人で顔を見合わせ少し笑った。

 こうしていると、同級生だった高校の頃みたいだ。

「じゃあ、俺、帰るけど……レッスンで何かあったら俺に言ってくれ」

「うん。でもとりあえず、引き受けちゃったからには、なんとか頑張ってみるよ」

 お互い、手を振って別れた。斗馬は杏が改札を入るまで見守りながら、さっき不意に思い出してしまったことをまた、考えていた。