カフェからの帰り、桐生にタクシーを呼ぶと言われたが、駅まではそれほど離れていない場所だったので断った。代わりに、斗馬が駅まで送るとついてきた。
自社の俳優が女性と二人でいることに桐生はあまり良い顔をしなかったが、斗馬は変装してるから大丈夫だと押し切った。実際、キャップとメガネにマスク姿の斗馬は、誰だか絶対に分からないであろう風貌だった。
店を出ると、少し早足で斗馬の前を歩く杏。その背中にただならぬ雰囲気を感じ、斗馬はあわてて声を掛けた。
「ねえ、くずあん? おーい、くずあんちゃーん?」
しかし杏は、振り向きも止まりもしない。斗馬は足を早め隣に並び、その顔を覗き込んだ。
ムッと口を結び、あきらかに怒っている表情。
「どうした、くずあん?」
「……どうした、じゃないよ! 私、怒ってるんだからね!」
「ええっ?!」
「こんな、突然呼び出して騙し討みたいな話で……!」
「ああ、それについては悪かったよ。謝る。でも蒼士先輩困ってたし」
「私も困っているんですが!」
「だから、ごめんて」
必死に謝る斗馬。杏は横目でチラリとその顔を見ると、はあ、と大きなため息を吐き出して歩く速度を落とした。斗馬もそれに合わせた。
「……どうして私なのよ。お菓子作るのは好きだけど、所詮素人だよ。斗馬くんの知り合いに、他にもそういう人いるでしょ?」
「まあ、確かに。でも、くずあんにした一番の理由は、お前高校の時もそうだったけど、今も芸能人に興味なくて頓着しないだろ? この間の撮影の時もそんな感じだったし」
「確かに、それはそう」
「蒼士先輩、関係者にファンみたくキャーキャー言われるの好きじゃないから、適任だろ? それに……」


