あなたは私のオランジェットの片割れ

 オムツを変えて、やっとまたリビンクのベビーベッドへ寝かしつける事ができた。きっとまたなにかしらで起きてしまうだろうけど、とりあえずホッとひと息。

 キッチンへ行き、飲みかけだったハーブティーをひとくち。とっくに冷めてしまっていて温い。キッチンからリビンクのベビーベッドがよく見える。どうやらまだ起きる気配がないようなので、杏は作業を開始した。

 蒼士の舞台の千穐楽に合わせて、赤ちゃんに度々中断されながら、オランジェットを作っている。これは蒼士のリクエストだ。

 ……結婚して、初めて蒼士が杏の作ったオランジェットを食べた時の事を思い出す。

 あの時も、蒼士のリクエストで作ったんだった。

 食べたら蒼士は大興奮で、今では大好物の甘味になった。だから、何かあるとこうして度々リクエストされるのだ。もちろん、育児をしている杏の負担にならないように気をつけてくれている。

 冷蔵庫に入れていたオレンジのコンフィを取り出す。もうほとんど出来ていて、あとはチョコレートをコーティングするだけだ。

 オレンジを見ると、ある話を思い出す。

 ――半分に切ったオレンジの切り口にピタリと重なるのは、その片割れだけしかないという。

 運命の人って、そういうことらしい。『オレンジの片割れ』って言うんだそうだ。それを知った時、「まるで俺たちみたいだな」って言って、蒼士は笑った。

 でも杏は、ちょっと大袈裟かな、と思ってしまう。蒼士といろいろな事があった。それが運命だったら素敵だけど、そんな運命的な事はきっともっと劇的で、小説やドラマでしかおきないだろう。

 だから自分たちは、


『オランジェットの片割れ』


 ――それぐらいが丁度いい。


 チョコレートをコーティングし終わると同時に、ベビーベッドからむずがり出した声が聞こえてきた。杏は出来立てのオランジェットをまた冷蔵庫に戻すと、ベビーベッドへ歩いて行った。

 幸せを噛みしめながら。










【おわり】