あなたは私のオランジェットの片割れ

 蒼士は着ているスーツのポケットからリングケースを取り出した。それを開け、杏の前へ置く。入っていた指輪は二つだった。一つは小さなダイヤモンドの付いた婚約指輪。その隣には、同じデザインの子供用の小さなリング。

「杏、俺と結婚してください」

 蒼士からのプロポーズに、涙が溢れ出す。

 本当は、辛かった苦しかった、怖かった。一人で子供を育てられるんだろうかと、毎日不安だった。それに――蒼士がまだ、大好きだったから……。

「……本当に、私でいいの?」

 私には……蒼士にしてあげられる事なんて、何もない。それでも、自分を選んでくれるのだろうか。

「杏でいいんじゃない、杏がいいんだ」

 蒼士はそう言って立ち上がると、杏の隣に座った。急に近くなって杏の鼓動が速くなる。

 蒼士はそっと杏の左手を取った。

「夢だった舞台と同じように、簡単には諦められない。杏を愛しているから……もう一度言う。俺と結婚してください。……指輪、はめてもいいか?」

 ぽろぽろと流れ落ちる涙が止まらないまま頷くと、リングケースから指輪を取り、蒼士は杏の左手の薬指にそれをはめた。だけど指輪はだいぶ大きくて緩かった。付いていたダイヤがクルンと回って手のひらの方へ向いてしまう。

「ごめん、サイズ分からなかったから……」

 バツが悪そうにそう呟いた蒼士。杏は泣いているのに可笑しくて、吹き出して笑ってしまった。

「蒼士さん、今度、サイズ変更に一緒に行ってくれる?」

「もちろん! その時は、結婚指輪も一緒に選ぼう」

 蒼士は指輪ごと包み込むように杏の手を握った。

 見つめ合い、どちらからともなく重なる唇。その時杏は、お腹の子が動いたように感じた。まだ妊娠2ヶ月で赤ちゃんも小さくて、胎動なんて分かりっこないのに、どうしてかそんな気がした。

 二人の事を祝福してくれたのか。

 それとも、頼りないママとパパを、しっかりしろよと応援してくれたのか。

 分からないけれど、とても幸せだった。





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