「どこから話そうか。そうだな……まず、気にしてると思うから先に伝えるけど、ブロードウェイの舞台は受ける事にしたよ」
蒼士の言った通り、ずっと気になっていた事だった。
(よかった……夢を続けてくれたんだ)
安堵して杏は思わず顔を上げた。だってその為に蒼士から離れる決心をしたのだから。
でも、じゃあなぜ迎えに来た、なんて言ったんだろう?
杏の疑問に答えるように、蒼士は言葉を続けた。
「杏がいなくなってすぐ、アメリカにいる監督の所に行ってきた。だから、ここへ来るのも遅くなったんだ」
「えっ……?」
「本当は、断るつもりで行ったんだ。だけど監督に理由を聞かれて……いろいろ話しているうちに監督が、公演を待つって言ってくれたんだ」
本来だったら、蒼士の役を他の役者に変更するところだ。しかし監督は、蒼士の事を一年待つ、と言ってくれたのだった。
役者として自分がそれだけ求められている、それも、ずっと憧れていた監督にだ。それが本当に嬉しかった――蒼士はそう言って笑った。
キラキラした笑顔。それは杏が大好きな蒼士の笑顔。変わっていなくて眩しくて、杏は思わず目を細めた。
「一年後、俺はやっぱりブロードウェイで演劇を学びたい。でもその時は、杏と子どもと、三人で行きたいと思ってる」
真っ直ぐに見つめられて、目を背ける事が出来ない。
「もう何も心配はいらないんだ、杏。俺の夢は終わらない。これからまだ続くんだ。だから、また最初から始めよう。契約婚約も、もう関係無い、杏と俺、二人が出逢った最初から、また……そして今度は三人で続けよう」
蒼士と杏と、そして杏のお腹にいる子どもと……。


