――祖母宅の和室の客間に、テーブルを挟んで蒼士と杏が座っている。ピンと張り詰めた空気がその場を支配していた。
何の用事で俳優の蒼士が来たのかと、下世話な好奇心で洋三も部屋に上がり込もうとしたが、祖母が適当な説明をして帰ってもらった。狭い町内だ。うっかり口を滑らせてしまうと、またたく間に広まってしまう。
祖母も、二人の方が話しやすいだろう、と席を外してくれている。杏のやりかけだった畑の草むしりをしているようだ。
長い沈黙の後、最初に口を開いたのは蒼士だった。
「ここは、良いところだな。自然が多くて、町の人もみんな親切だ」
「うん……」
ただの小さな田舎町だが、都会で生まれて育った蒼士には、そう良く見えたのかもしれない。杏は俯いたまま、返事だけを返した。
「杏、身体は、大丈夫なのか?」
「……うん、おばあちゃんの知り合いに、産婦人科の先生がいて、そこで診てもらってる。順調だって」
「そうか……良かった」
そしてまた、沈黙。
(どうやってここを見つけたのだろう? 何をしに来たんだろう? そして、夢だった舞台は、どうしただろう……)
杏には、蒼士に聞きたい事がたくさんあった。だけど気持ちが混乱しているのか、それが上手く言葉に出来ない。
気持ちを落ち着けようと、テーブルに置かれた、祖母が淹れてくれた麦茶を飲んだ。だいぶ温くなってしまっていた。それにつられたように、蒼士も麦茶に口をつけた。
お茶菓子は、商店街にある小さな和菓子屋さんの紅葉の練り切り。この店の練り切りは、色も形も可愛らしくて味もいい。祖母のお気に入りで、杏も大好きになった。


