「――おおーい! みどりちゃん!」
その時、大きな声で祖母の名を呼ぶおじいさんがこちらへ来るのに気がついた。『みどり』は祖母の名だ。見ると、三軒隣に住んでいる人だった。
剃ったのかハゲたのかは知らないが、ツルリとしたスキンヘッドで、普段から声が大きい、洋三おじいさん。祖母に好意を持っているようで、よく家にも訪れる。
「みどりちゃん、杏ちゃん! ああ、良かった! 行き違いにならなくて!」
「洋三さん、その方はどなた?」
本能的に祖母は庇うように、杏の前に歩み出た。洋三の後ろから、スーツ姿の若い男性が歩いてくるのが見えたからだ。
杏はその男性と目が合った瞬間、動揺を悟られないように体の両脇でグッと手を握った。
(蒼士さん……)
たった二ヶ月ぶりなのに、もう懐かしい。髪を少し切ったようだ。仕事の為なのか、色も明るめだったのに、今は黒髪になっていた。細身で濃紺のスーツがよく似合ってる。
蒼士は杏と目が合うと、ホッとしたような笑顔になった。
「このお兄ちゃんがさ、商店街のとこでみどりちゃんちを探してたから、俺が案内してきたんだ」
洋三は、おつかいしてきたのを褒められたがっている子どものように胸を張った。しかしそう思っているのは彼だけで、祖母は訝しげに顔を歪め、杏はうつむき視線を外した。
「突然すみません。初めまして。私は俳優をやっております、東雲蒼士と申します。杏さんを、迎えに来ました」
蒼士はそう言って、祖母に深々と頭を下げた。


