あなたは私のオランジェットの片割れ



 次の日の朝、蒼士は目が覚めるとリビングへ。しかし、そこから見えるキッチンに、杏の姿は無かった。いつもは、蒼士が起きるより早く杏は起きて、朝食を作ってくれているのに。

 (昨夜の事もあったから、まだ眠っているのかもしれない)

 そう思い、蒼士は身支度を整えると、朝食を作り始めた。

 フライパンでベーコンを焼きながら、一緒に目玉焼きも。蓋をして少し蒸らせば黄身の半熟具合が調節出来ると杏に教えてもらった。

 少し前までは、自分が料理をするなんて考えもしなかった。

 始めは仕事だったけど、杏が楽しそうにお菓子を作ったり料理をしているのを見て、自分もやりたくなった。全部、杏が教えてくれたんだ。そんな事を考えていると、自然に胸の中が温かくなる。

 俳優という仕事柄、舞台や役に集中してしまうと、いつの間にか『日常』という枠から逸れてしまっている時がよくある。そんな時に、杏の存在、杏の作るお菓子が、逸れた軌道を修正してくれていた。

 それが、たまらなく愛しい。

 杏が妊娠したと聞いて、本当に嬉しかった。子供が生まれて三人家族になったら、きっともっと楽しくなる。蒼士はそう確信していた。

 だから、夢だった舞台も次のチャンスを待とうと、すんなりと思えたのだ。

 フライパンからジリジリと卵の焼ける音がしている。そろそろ火を止めてもいい頃だ。後はトースターでパンでも焼けばいい。野菜が無くてバランスが悪いと、杏に叱られるかもしれないが。

 ダイニングテーブルにお皿に移したベーコンエッグと、側に置きっぱなしにしていたオランジェットも一緒に並べた。結局昨夜、食べられなかったものだ。

 蒼士は杏を起こしに部屋へ向かった。