あなたは私のオランジェットの片割れ

 そんな楽しい気分を台無しにするのは申し訳ないな、と杏は想いながら、はしゃいでいる蒼士を真っ直ぐに見据えて話し始めた。

「あのね、蒼士さん。話があるの……」

 杏の真剣な空気に気がついて、蒼士も手にしていたオランジェットを置いた。自分から切り出したのに言い出せず、杏は暫くもじもじとしていた。

「私、妊娠してるみたい……」

 やっとそう口に出たが、どう話したらいいのか分からず、結局普通に言ってしまった。

「えっ……?」

「この前、病院にも行ってきたの。先生にちゃんと確認してもらった。お腹に蒼士さんとの赤ちゃんがいるって……」

 蒼士も予想外だったのだろう。驚いて聞き返してきたので、杏はもう一度、お腹に手をあてながら言った。

 蒼士の顔が、驚きの表情に変わる。それが笑顔に変わっていくと立ち上がり、杏の隣まで来て、ガバっと抱きしめた。

「びっくりした! でも嬉しい! ありがとう、杏!」

 抱きしめる力が強くて、思わず杏は顔を歪めた。

「ちょ……! 痛いよ、蒼士さん!」

「ああ! ごめん! 体、大丈夫か?」

 慌てて体を離し、杏とお腹の赤ちゃんを心配する蒼士は、やはり優しい。そんな蒼士の様子に、杏も嬉しくなった。

 無事を確認すると、蒼士は今度はゆっくりと優しく抱きしめた。

「なるべく早く、結婚しよう」

 その言葉が嬉しくて、杏の胸がギュッとなる。

 欲しかった言葉……嬉しくて、涙が出そう。

 でも……。

「そうだ! 結婚指輪も買いに行かなきゃな。それと、いい産婦人科も探して――」

「――待って、蒼士さん」

 先走る蒼士を制して杏は体を離した。

「蒼士さんの仕事は、どうなるの? 短期移住するって……」

「ああ、そうか。妊娠中に慣れない海外に住むのは、杏はやっぱり不安だよな……」

 知り合いが誰もいない、言葉もよく分からない、そんな所で暮らすのは、妊娠していなくても不安だ。それに、渡米する為に乗る飛行機で万が一のことが起こるかもしれない……。