あなたは私のオランジェットの片割れ

 しばらくコーヒーを飲みながら、窓の外を行き交う人たちをぼんやりと眺めていた。近くにファミリー向けの大型ショッピングモールがあるからか、家族や子供連れが多い。みんな楽しそうだ。

(私と蒼士さんも、あんなふうになれるのかな……)

 ベビーカーを押し、笑いながら歩く若い夫婦。その姿に自分と蒼士を重ねた。そんな未来を想像するだけで、ほんのりと口角が上がる。

 でも、今はだめだ……。

 蒼士は今、大きな夢を掴もうとしている。ようやくその夢に手が届いたのだ。だから、脇目も振らず頑張らなければいけない時。

 妊娠した事を伝えれば、絶対に喜んでくれるだろう。だけど、それが彼の夢を邪魔してしまうかもしれない。杏やお腹の赤ちゃんの負担を考えて、海外への短期移住をやめてしまう事も大いに考えられる。

 自分の夢は後回しにして、杏と赤ちゃんの事を想ってくれるだろう。優しい人だから……。

 だからこそ、蒼士の足枷になるのは嫌だった。

(強い決意が必要になるかもしれない……)

 一口飲んだだけでコーヒーはすっかり冷めてしまっていた。でもそれをグイと飲み干した。

(とにかく、話してみよう。蒼士がどう考えるか、聞いてみないと分からない)

 杏はそっとお腹に手をあてる。手のひらの温もりが、じんわりとお腹に広がった。自分の中で息づく命に勇気を貰って。杏はお店を後にした。





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