あなたは私のオランジェットの片割れ

 自分の体がどうなっているのか分からなければ、結局なにも決められない。

 そう思って、ドラッグストアで売っている簡易検査薬を試してみたら案の定、陽性だった。杏は意を決して、病院を予約した。


 『ひよこ産婦人科クリニック』

 道路を挟んだ向かい側のビルにかかげてあるその看板を見ながら、震える気持ちで杏は立っていた。レディースクリニックや婦人科は、年一の検診とかで何度もかかった事はある。でも今回は違う。

 昨日から蒼士は舞台の地方公演へ行っていて、帰って来るのは三日後。蒼士には悪いが、杏にとってはタイミングが良かった。

 どのくらいその場に立っていただろう。スマホで時間を確認すると、予約の時間が近付いていた。尻込みしていつまでもここにいるわけにはいかない。杏は大きな深呼吸を二回すると、ひよこ産婦人科クリニックに向かって歩き出した。

「おめでとうございます!」

 クリニックの診察室で、先生にそう言われたのは、検査が終わってすぐだった。

 その言葉を聞いたとたん、胸の中に花がパッと咲いたように嬉しくなった。今までに感じた事のないような幸せな気持ち。

 だけど同時に、ああ……、というなんとも言えない想いも重くのしかかった。

(どうしよう……)

 お腹に命が宿って、こんな事思いたくないのに、どうしてもそうかんがえてしまう。母親としては最低だな、と杏は自嘲した。

 クリニックを出た杏は、まっすぐマンションに帰る気にはなれず、駅前のカフェに入った。マンションには誰もいないとは分かっているが、帰る前に考えをまとめたかったのだ。

 カウンターで注文するセルフの店。杏は体の事も考えて、メニューにあったノンカフェインのコーヒーにした。それを持って窓沿いのカウンター席に座った。