あなたは私のオランジェットの片割れ

 付属の粉に卵と牛乳をよ〜く混ぜて、後は焼くだけでパンケーキの出来上がり!

 そんな謳い文句が書かれている箱から、材料を取り出す。撮影現場にいる皆が杏に注目していて、緊張で手が震えた。

 粉と卵と牛乳を混ぜたところで、隣の蒼士に泡だて器とボウルを渡す。まるで彼が作っているように持ち方や姿勢を整えて、手元が映らないように撮影してもらうと、ほら! 料理上手なイケメンの出来上がりっ!

 ……まったくバカバカしい。

 芸能界は虚構の世界、と言うけれど、こういうことなんだろう。会社の先輩の和田が撮影に来たがっていたけど、来なくて良かったと杏は思う。こんな場面を見たら興ざめだ。

 でも、東雲蒼士、はいい人だった。

 急遽撮影に参加することになった杏に、お手数をおかけします、と深々と頭を下げてくれた。

 てっきり、チヤホヤされてる人気俳優だから横柄な上からの態度を取られるかと思っていたが、正反対だ。丁寧な物腰に柔らかくて優しい言葉遣い。杏の作業をじっと観察し、こちらが恥ずかしくなるくらい褒めてくれる。

 それにやはり美しい。手入れが行き届いているのか肌も綺麗だし、髪もツヤツヤさらさら。男なのに睫毛が長くて、影が頬に落ちる。

 そのイケメンたる顔力に、つい見つめ過ぎてしまったが、目が合うとニコリと微笑んでくれた。

 蒼士にすっかり好印象を持った杏は、始めは嫌々やっていたのに、いつの間にか楽しくなっていた。元々、お菓子を作るのが大好きなこともあるが。

 夕方になる頃には、なんとか撮影も終わった。撤収を始めるスタッフたちがバタバタと動き回っている。蒼士たちは着替えて帰る支度を始めていた。

 そんな中、杏はキッチンのセットに置きっぱなしになっている、作りかけのお菓子の材料が気になっていた。

 どれも、混ぜただけだったり、泡立ててそのまま置きっぱなし。クッキーの種はボウルに無造作に入れられ放置されている。