ねぇねぇばあば。
時々違う猫の匂いがするけど、誰かと遊んでいるの?
ばあばは最近、デイサービスに行くのを楽しみにしている。
なかなかそこでのことを話してもらえないので、どういうところかは、あたしにはわからないけど……
ばあばがデイサービスでほかの猫と遊ぶのはなんかやだ。
そんな変な気持ちにはなるけど、ばあばが元気になったのは、やっぱり嬉しいな。
「今日はどんなお話をしようかね。」
ばあばのお話がだんだん楽しいものに変わってきた。
いままではじい様の思い出話とか、時々悲しそうな声でお話をする。
コンビニに行ったじい様の話とか、そんなお話ばかりだったけど、アイスクリームのお話や、初めて横浜に行った時の話、それからぁ……。
「今日は、昔の話をしようかね。これは私が小さい頃に、ばば様から聞いたお話だよ。
昔々、あるところに……。」
ばあばの夕飯とあたしがカリカリを食べ終わると、寝かしつけるみたいにいろんな話をしてくれる。
あたしのことは、小さい女の子だと思っているのかな。
「これは都にお内裏様やお雛様が本当にいらした頃のお話だよ。
あるところに、それはもう猫と遊ぶのが大好きな皇子様がいらしたそうです。
猫のクロといたずらばかりしているので、人々は猫君様と呼んでいました。
猫君様はとある事情で都からは少し離れたところにあるお屋敷に、乳母とその子供たちとともに暮らしていました。」
あれ、このお話は、なんか知ってるみたい?
「あるとき猫君様たちのもとに、帝の御代に不満を持つ悪いお侍がやってきました。」
あ、それ知ってる!
人質にされて閉じ込められてた話でしょ?
「帝に世の中を変えさせようと、人質を取ることにしたのです。
さらわれたのは、美しいお公家の沙織姫でした。」
……ってあれ?
「猫君様たちは、力を合わせて姫様を助けるべく、つわものの晴信兄様、切れ者の修兄様とすばしこい勇兄様の3人と、猫のクロを連れて悪い武士の屋敷に向かいました。」
「屋敷についた四人と一匹は、まず作戦を立てました。
『さて、どうしたものか、中の様子がさっぱりわからぬ。』と、一番上の晴信兄様が言うと、猫君様が、
『ならば、身軽な勇兄者に中の様子をうかがってもらうのはどうでしょう?』
といい、屋敷の中に勇兄様とクロが様子を見に行きました。」
なんか話が少し違う気がするけど、ワクワクするし、すごく面白い。
あたしはばあばの話に前のめりになって聞き入っていた。
「屋敷には家来が五十人、姫をさらったお侍が二人がいて、のんきに酒盛りを始めていました。
姫は部屋に閉じ込められ、見張りがついていると勇兄様が言いました。」
ばあばはここから、いつになく熱を込めて語り始めた。
「勇兄様とクロが派手に音を立てて『帝の兵が攻めてきたぞ!』というと、中からわらわらと家来が出てきますが、正面の門に集まって押し合いへし合いで混雑しています。
晴信兄者、修兄者の二人が待ち構え、次から次へと家来をやっつけていくのでありました。」
うんうん、それでそれで、とあたしはばあばにお話をせがんだ。
「そのうちに猫君様が誰もいなくなった屋敷から沙織姫を救い出し、屋敷には悪いお侍二人になりました。」
「後ろから隠れていたクロがとびかかり、びっくりしたところを猫君様と勇兄様で挟み撃ちにして捕らえて、懲らしめてやりました。」
うん、それから! ってあたしもばあばの話に夢中になっているの。
「猫君様たちは沙織様たちとともに屋敷を手に入れて、みんなでなかよくくらしましたとさ。
めでたし、めでたし。」
あたしは、なんだかとても懐かしい気持ちになった。
「猫の君」のこと……知ってる。
そんな気がしたの。
あれ、なんで泣いているんだろう。
なんか、心がざわざわして……なんかヤダ。
だって猫君様と一緒に暮らすのは……小夜だもん。



